ドバイは、世界中の投資家にとって魅力的な投資先です。特に、国家の発展に向けた政府のコミットメントは強く、個人所得税ゼロという魅力的な税制と、安全かつ快適な住環境を目的に移住する富裕層と、急成長する経済活動を支える労働者の増加による、住宅需要増は顕著であり、需要に対して供給が追いついていない状況が長く続いています。ドバイの現在の人口は370万人程度ですが、2040年までに580万人までに増加させる政府の計画があります。2024年の第一四半期だけでも約25,000人の人口流入があり、年間10万人ペースで人口が増えています。賃貸市場は政策による高い需要に支えられ、長期に亘って高利回りを期待できるため、多くの投資家が注目しています。
一般的に、ドバイの賃貸不動産の平均的な利回りは6 ~ 8%程度と言われています。ダウンタウンやマリーナなどの成熟エリアでは5%程度、郊外のエリアでは10%を超えています。これは他国の主要都市に比べて非常に高い水準であり、投資家にとって大きな魅力となっています。更に、賃料平均は2022年には27%、2023年には19%の上昇を見せており、コロナ後の著しい物件価格の上昇を経ても依然として賃貸利回りは高水準で維持されています。ドバイ不動産は高い利回りと高いキャピタルゲイン(過去4年間は毎年10%以上の成長)を同時に実現している稀有な市場です。
参考:Dubai real estate: Highest rental yields by area revealed
ドバイの賃貸契約は、DLD(ドバイ土地局)が管理するEjari(エジャリ)というオンラインシステムを通じて登録されます。賃貸契約書はDLDが用意するテンプレートを使用し、Ejariへの登録が義務付けられており、罰則規定もあります。Ejariに登録することで、締結された賃貸契約を公式に認証し、記録する役割を果たします。これにより、賃貸契約は法的に有効となり、テナントとオーナーの権利が現地法に基づいて保護されます。ドバイにはRDC(レンタルディスピュートセンター)という賃貸トラブルを仲裁する機関がありますが、Ejariに未登録の場合、テナントもオーナーも保護されません。未登録の罰則を避け、自らの権利を保護するためにも、速やかにEjariへの登録をすることが重要です。
仲介サービスを利用した場合、ドバイでは通常、年間賃料の5%(居住用の賃貸の場合)がエージェントの手数料として請求されます。この費用は、物件の紹介、契約手続き、Ejari登録のサポートなど、エージェントが提供するサービスに対する対価です。賃貸契約を締結する際には、これらの費用を予め把握し、収支計画に組み込むことが重要です。
ドバイでは、オーナーが賃貸契約の更新の都度、賃料の増額について要求する権利があります。更新日の90日以上前に、テナントにメール等で通知することで法的に有効な通知になります。しかしながら、増額幅には一定の制限が設けられています。この制限の範囲内であれば、テナントは拒否することはできません。オーナーが増額できる金額を確認するためには、レンタルインデックスというDLDが提供する賃料の適正性を計算するツールが存在します。これは毎年更新され、現在の契約賃料と、現在の周辺の類似物件の賃料を比較し、ルールに基づいて増額可能幅を算出します。例えば、現在の賃料が周辺類似物件の平均と比較して21 〜 30%低い場合、10%までの増額を要求することができます。11 〜 20%低い場合は5%の増額を要求することができます。このツールは同じエリアの同じ部屋の間取りの取引を参照するのみで、同じエリア内の異なる建物間の設備グレードや立地の違い、同じビル内でも眺望や内装の違い等を反映しないため、適正賃料の反映において一定の限界があります。もし、オーナーがツールで算出された賃料水準に納得がいかなければ、再審査を要求することができます。
ドバイでは、テナントの契約延長の権利と立退について厳格なルールが定められています。原則として、テナントは重大な契約違反(賃料の未払いやサブリース等の目的外使用)等がない限り、自動的に賃貸契約を更新する権利があり、オーナー側から契約の更新を拒否することは原則としてできません。例外的に、オーナーが、テナントに立ち退きを要求するには、1. 物件を売却する場合、2. 自身または家族が物件に住む場合、3. 老朽化等が理由で物件に危険があり工事等が必要な場合、(それぞれさらに詳細な補足や条件がありますが)この3つの条件のいずれかに該当する「正当な事由」が必要です。加えて、テナントに対して、少なくとも退去日の12ヶ月前に書面で通知する必要があります。正当な事由がない場合、または、適法な通知がされなかった場合、立退に法的強制力を持たせることはできません。
ドバイでは、賃料支払いの方法として、一般的に先日付小切手が使用されます。これは、テナントが、事前に賃料支払い予定日に決済される小切手を発行し、オーナーに預託します。オーナーは小切手に記載された日付まで小切手を換金することはできません。また、銀行振込も受け取り方法として利用可能で、一年分を一括前払するケースで使用されます。支払条件は、一年分を一括払い、4半期ごとに支払い、毎月支払いなど、様々ですが、当然に一括で支払いをする方が、賃料交渉においては有利です。表裏一体ですが、オーナーとしては契約開始時に一括で賃料を受け取れる方が安心かつキャッシュフロー的にも有利ですが、当然に賃料を下げるように交渉されるので、バランスを検討する必要があります。
1年契約が一般的です。解約条件は2ヶ月前通知、2ヶ月ペナルティといった条件設定が一般的です。これは、例えば1月1日に契約を開始した場合で、4月末に退去することを決めた場合、6月末に退去し、更に2ヶ月分のペナルティを支払うことになります。この条件は契約で自由に設定できます。
ドバイの区分所有アパートではオーナーに対してサービスチャージ(管理費)が発生します。これは、管理会社が、建物の共用部分の維持費用を支出するためにオーナーから徴収します。テナントがいる場合でも、通常、サービスチャージはオーナーが負担しますが、契約内容によってはテナントが一部または全額を負担する場合もあります。賃貸契約を締結する際には、サービスチャージや、その他の費用の負担について契約書で明確にしておくことが重要です。
ドバイでは6ヶ月以下の短期の賃貸契約はDLD(ドバイランドデパートメント)ではなく、DTCM(通称、ドバイツーリズム)の管轄となり異なる営業許可が必要になります。オーナーが自らライセンスなしに民泊営業をしたり、資格を持たない不動産エージェントが短期の賃貸契約をすることは違法です。DTCMの許可を持った認定運営業者が法令に則り営業することが求められます。短期賃貸で運用したい場合はユニットを購入後、これらの認定事業者に運営を委託することが一般的です(オーナー個人が許可を取得して運営することも可能です)。清掃費用やマーケティング費用等の代行手数料を一定料率で定め、運営業者が得た総売上から差し引き、手残り75 〜 85%程度をオーナーに支払いしています。ドバイは観光客やビジネスでの来訪者が多く、底堅い需要があります。エリアや戦略、運営業者の力量次第ですが、短期賃貸の平均的な利回りは長期賃貸より20〜30%高いと言われています。前述の立退に関する厳しいルールがあるので、長期賃貸は避け、短期賃貸で運用しながら売却機会を待つという戦略を採る投資家は少なくありません。
以上が、ドバイ不動産投資における賃貸経営とテナントの権利に関する基本的な情報です。投資家にとって、これらの知識を把握しておくことは、賃貸経営を成功させるための重要なステップとなります。